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1日1つの「日本的!」な楽しみ


by michiru-hibi1007
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柏餅      癸丑(みずのとうし)・旧暦3月26日

柏餅                                                 癸丑(みずのとうし)・旧暦3月26日_c0205840_17214480.jpg


和菓子の世界も季節を先取りしがち、今年も柏餅と桜餅がウインドウに並んで売られているのをずいぶんたくさん見かけました。

しかし、和菓子ぐらいは季節どおりにいただきたい。せめて桜散るまで、いやいや、端午の節句の供物ですから、鯉のぼりが掲げられるのをこの目でみたら...と、いろいろ理由を付けて我慢して、アパートのベランダやら屋上やらに、ささやかながらも鯉のぼりが泳ぎだしたのをきっかけに、やっと今日、柏餅を解禁です。
初夏の訪れを告げる柏餅。
写真は、いつもいただくご近所の老舗・つる瀬のものです。

毎年店頭には、こし餡、粒餡、味噌餡の三種が用意されますが、写真は、味噌餡とこし餡。モスグリーンがかった柏の葉で包まれているのがこし餡で、濃いグリーンの柏は味噌餡、たしか、粒餡は、草もち+モスグリーンの柏です。

柏餅は、こうして柏の包み方で区別するのが決まりなのか、小豆餡は葉の表を見せて、味噌餡は葉の裏を出して包んでいるのを、多く見かけるような気がします。

日本のお菓子は、こうゆう知らなければ見過ごしてしまいそうなこだわりも面白く、楽しい。たしか、柏の裏表に気が付いた年は、柏餅を見るたび、横目でちらちら、ずいぶんたくさんの柏餅チェックにいそしんだものです。

この柏の葉ですが、他の落葉樹と違って、新芽が育つまで古い葉が落ちません。武士の家では、その様子を、跡継ぎが生まれ育ったのを見届けるまで親も生きると見立てて「子孫繁栄」「家系が絶えない」の縁起をかつぎ、庭に柏の木を植える家も多かったそうです。

男子の健やかな成長を祈願する端午の節句に、その柏の葉で包んだ餅を供物としたのも、実は、武士の街でもある江戸市中の文化。柏餅の発祥は、上方ではなく江戸で、やがてまず人の行き来の多い東日本に広がって、さらには、参勤交代で江戸につめる全国の大名たちが徳川将軍家の節句祝いで柏餅を知り、故郷に広めるというカタチで、全国に伝わっていったということのようです。

さて、江戸の後期の江戸後期の風俗史家に、喜田川守貞(きたがわもりさだ)という人がいて、もともとは、商いのため大阪と江戸を行き来した商人で、やがて砂糖商として江戸に定住しました。その著作に『守貞謾稿』(もりさだまんこう)という、江戸時代の様々な風俗を絵入りでまとめたものがあって、当時を知るには非常に貴重な資料とされます。その書は今も『近世風俗志』(岩波文庫)として読むことが可能ですが、特に、江戸と京都・大坂の風俗の違いが詳細に述べられている点が興味深く、砂糖を商っていたことからなのか、菓子の記述も細かくあります。

探してみれば、端午の節句の供物に関しての記述がありました。

曰く「京坂にては、男児生まれて初の端午には、親族および知音の方に粽を配り、2年目よりは柏餅を贈る」、「江戸にては、初年より柏餅を贈る」。
ちなみに、京坂は、京都、大阪の略、上方のことです。端午の供物には、柏餅と粽で東西の違いがあったようで、やはり、江戸発祥の柏餅は江戸の五月節句の主役の菓子で、京都・大阪は粽。それでも二年目の供物として柏餅が贈られていたという記述から、少なくとも『守貞謾稿』がまとめられた江戸の後期には、上方にも柏餅が普及していたことも見て取れます。

さらにその作り方の記述もあって「三都ともその製は、米の粉をねりて、円形扁平となし、二つ折りとなし、間に砂糖入りの小豆餡をはさみ、柏葉、大なるは一枚を二つ折りにしてこれを包む。小なるは二枚をもって包み蒸す。江戸にては、砂糖入り味噌をも餡にかえ交ゆるなり。赤豆餡は柏葉表を出し、味噌には裏を出して標しとす」とかなり具体的で、なるほど、柏の葉の裏表の作法は、もうこのころから始まっていたようです。

さてさて、それでは、さっそく柏餅をいただきましょうか。
まずは、お茶を入れて。
...と、「粒餡はどうするのか」ですか?
もちろん、シーズン中にもう一度二度、今度は味噌餡と粒餡、粒餡と漉し餡と組み合わせを変えていただくのです。

1年に、長くてわずかひと月ぐらいしか登場しない季節の和菓子ながらも、味や食感のバリエーションが多い柏餅。
それも、この和菓子の頼もしき特徴、そんな風にも感じるのですが、いかがでしょうか。
by michiru-hibi1007 | 2011-04-28 17:20 | 和菓子歳時記