1日1つの「日本的!」な楽しみ


by michiru-hibi1007

日本の神話        癸亥 (みずのと い)の日・旧暦2月5日

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約1300年前の今日、旧暦ならば、712年(和銅5)年1月28日に、「古事記」が完成、太安万侶によって元明天皇に献上されました。
成り立ちの意図から言えば、これが、日本でもっとも古い歴史書の誕生です。

とはいっても、現代人にとっての「古事記」は奇想天外な神々たちの物語で、歴史書としてではなく「神話」...つまり千年前の日本人が口承で伝えてきたお話の集大成と割り切って読むものだと思います。
しかし、だからこそ面白く、多くの研究者や作家たちにより現代語訳が多く出ているのも、やはりその圧倒的な面白さにひかれてのことだと思うのです。

子供の頃、小学校の図書館の蔵書の中で「日本の神話」は定番で、松谷みよ子さんによるものがお気に入りでした。今はどうなのかしらと思ったら、写真のようにずいぶん印象の違う美しい装丁で復刻しています。やはり、子どもたちにとって...もしかしたら昔のこどもたちにとってかもしれませんが、その面白さは健在なのでしょうか。そんな風に思いながら、早速紐解いてみます。

「イザナギ・イザナミの国生み」、黄泉の国と現世を隔てる「黄泉比良坂」、アマテラスが隠れた「天の岩戸」「因幡の白兎」「ヤマトタケルのオロチ退治」...などなど、懐かしい話が次から次へと繰り広がりやはりずいぶん夢中になって読みすすみます。
この面白い話が「古事記」というあまり馴染みの無い難しそうな書物から編み出されてきたものだとは、教師からではなく、松谷さんによるこの本のあとがきで知りました。しかし、実際に「古事記」を読んだのはずいぶん大人になってからです。

「古事記」は、戦前、行き過ぎた国粋主義のよりどころとして利用され、敗戦後はその反動で教育の場や研究の場からの排斥され翻弄されたという悲しい歴史を持ちます。そもそも受験にも出ない、実社会にストレートに役立たない古い話を学んでどうするのか、そんな気分の時代も確かにあったような気がします。だから、本好きな高校生、大学生になってもなかなか食指が動かなかった。

それが、社会人になって、子供用の神話で慣れ親しんだ物語への懐かしさからか、偶然にそれを読み、「古事記」の世界は、編纂した為政者の意図はもちろん、1000年以上という時間の壁すらも軽々と越え、現代にも生き生きと息づいている、すごいお話だと気づきました。

現代語訳を上梓した作家のひとり、田辺聖子さんは、古い大阪弁「おらぶ」が、古事記の中で同じ「叫ぶ」という意味で使われているのを発見し、「民族のへその緒は、繋がって脈々と受け継がれている」と感動し、その話を「田辺聖子の古事記」の前書きで語っています。

私達が何気なく訪ねる神社も、よくよく、祀られている神さまを調べれば、多くは「古事記」ワールドの神々。そこで行われる年中行事や縁日も、はるか昔の「古事記」の神々に由来するものも多いのです。
実際、縁の地と語られている場所も、出雲大社や高千穂の峰、伊勢神宮などなどをはじめとして西日本を中心に数多く。そこをひとつひとつ訪ねてみたいと思った瞬間、「古事記」は、日本のルーツを訪ねるガイドブックに早がわり。やや本筋から離れ、描かれている植物や食べ物、動物探しという読み方をしても様々な発見があり、幾重にも楽しめる興味深い本なのです。

そして、私たちは、神さまのことを勝手に「立派な方々」と決め付けているきらいがあるけれども、「古事記」に登場する神様たちは、おおらかで無邪気で、猜疑心やら嫉妬やらも強く、ひとたび暴れれば手の施しようがない乱暴物。こういってはなんですが、実はとんでもない存在でもあると思うことにもなります。

「古事記」は、天武天皇が、当時ちまたに溢れていた様々な伝承から正しいと思うものだけを稗田阿礼という記憶力の優れた女性に語って暗誦させ、それを数代先の元明天皇に命じられた太安万侶が書き記したものといわれています。つまり、天武天皇による、作為的な取捨選択はあるものの、これらの幾重にも面白さをなすお話は、多くの古代人のイマジネーションとクリエイティブな力の蓄積によって生み出されたものであることは確かです。

そのとき、自然に対して人々が感じた脅威と畏怖が、これらの神さま方のキャラクターのよってたつところになったのではないか。神さま方は、空や雲や大地や水の中にいて、人々を見守っていてはくれるが、人の都合で動くものではなくて、時に激しい天災をもたらす存在でもある。だから、自然を敬い、逆らったり貶めたりすることがあってはいけない、そのことを忘れてはいけないよ。

そうゆうことを重々伝える物語を古代人たちは作りたかったのではないか。
大人になって、古事記や日本の神話を紐解くたびに、ひとり勝手にそう思うのです。
by michiru-hibi1007 | 2011-03-09 19:25 | 記念日